2009年9月23日水曜日

女、酒、カネ、 メガバンク三井住友の行員が溺れた…

女、酒、カネ… メガバンク三井住友の行員が溺れた「ズブズブ接待」の果て
9月23日13時28分配信 産経新聞


 1回8万円の東京・吉原の高級ソープランド、銀座や六本木の高級クラブ、クルーザーでの接待、さらには金銭提供…。約165億円が焦げ付いた三井住友銀行の融資金をめぐる詐欺事件で、同行元行員の堀信文容疑者(44)が、不動産会社「コシ・トラスト」社長の中林明久容疑者(41)に籠絡(ろうらく)された背景には、「女」「酒」「カネ」という古典的な誘惑があった。



誘惑に負け、詐欺の片棒を担いだ堀容疑者だが、その役割から「共犯者というより首謀者に近い」とみる捜査員もいる。メガバンクによる貸し渋り、貸しはがしが社会問題となる中、事件は堀容疑者の個人犯罪では割り切れない一面もあるのだ。(伊藤弘一郎、内藤慎二) 



■偽の事務所、決算書、名刺…周到な舞台回し 



平成15年10月下旬、東京都千代田区麹町の法律事務所の一室。4人の男が集まり、ひざを突き合わせて密談していた。 「売り上げはどうする?」 「利益はこれくらいだろうか…」 堀、中林の両容疑者とコシ社の社員ら4人が話し合っていたのは、当時、中野区内にあった会社「鳩企画」の決算書の作成についてだった。 



しかし、日用雑貨の卸売り販売業として登記されていた同社は、実は経営実体のないペーパーカンパニー。当然、売り上げはない。融資を受けるために必要な決算書に、どういったウソの数字を書き込むかが主な議題だった。 「ここ数年の売上高は右肩上がりになっていた方が、融資を受けやすい。審査の段階でオーケーにするから心配ないよ」 13年7月期が8億7100万円、14年7月期が9億2100万円、15年7月期が10億6800万円…。ニセの決算書は、1人の男が導く形で出来上がっていったという。 



謀議を主導した男-。それが当時、三井住友銀行高円寺法人営業部の部長代理だった堀容疑者だった。 警視庁では、こうした堀容疑者の行為が不正融資の実現に不可欠だったと判断。三井住友銀行をだましてペーパーカンパニー「鳩企画」に1億5000万円を不正融資させて詐取したとして、詐欺容疑で9月9日、中林容疑者ら7人とともに堀容疑者を逮捕するに至った。 



堀容疑者による“舞台回し”は、決算書の偽造にとどまらなかった。謀議の数日後、堀容疑者の上司にあたる営業部長が、融資先の会社代表と面接する予定になっていた。このため堀容疑者は対策として、「社長役」の男に対し、予想される質問内容や“模範解答”を伝授したのだ。 



さらには都内のショールームを借り、「鳩企画」と印字されたニセのプレートや名刺を作製したほか、机やパソコンなどを設置し、事務所の体を整えていった。そのでき映えは、面接に訪れた営業部長が全く気づかないほどだったという。 



数々の偽装工作により、堀容疑者らが詐取した額は約1億5000万円に上ったが、三井住友の受けた被害はこれだけにとどまらない。 逮捕容疑以外にも、同行がコシ社を通じて約80社に行った融資の焦げ付き総額約165億円のうち、堀容疑者が勤務していた高円寺法人営業部が窓口となったのは実に110億円に上る。 



「逮捕容疑はあくまで氷山の一角。堀容疑者は共犯者というより、首謀者に近い位置づけだ」 ある捜査員はそう話す。 焦げ付いた融資金の大半は、当時、自転車操業に陥っていたコシ社の運転資金へと消えていった。一見、堀容疑者が不正融資に加担するメリットがないようにも見えるが、その裏には堀容疑者がはまっていった甘いワナがあった。 



■ソープランド「常連」を確認した警視庁 



「大人になってから遊びを覚えたタイプ。銀行員としてのモラルより、普通の仕事では味わえないうま味を取ったのだろう」 コシ社元社員は堀容疑者をこう評する。



堀容疑者は東京都内の私大を卒業後、昭和62年、前身の太陽神戸銀行に入行。一貫して営業畑を歩み、平成12年10月には高円寺法人営業部の部長代理に就任。前途を嘱望された社員の1人だった。



 コシ社への融資を担当するようになった堀容疑者が、中林容疑者と知り合ったのは14年2月ごろ。当初は「融資元」と「顧客」という関係だったが、2人は偶然、同じ出身大学だったことで意気投合。次第に個人的な付き合いをはじめるようになったという。 



捜査幹部によると、中林容疑者が堀容疑者への接待を始めたのは同年末ごろ。それから約4年半のあいだ、堀容疑者は中林容疑者による「接待漬け」となっていったのだ。 一例を挙げると…。 



▽六本木や銀座のクラブ(約5万円) ▽吉原の高級ソープランド(約8万円) ▽都内のデートクラブ(約7万円) ▽リゾート地である神奈川・葉山で高級クルーザーに乗船しての釣り 捜査幹部は「多すぎて正確にはわからない」と苦笑するが、堀容疑者は判明分だけで年間100万円以上、少なくとも総額500万円以上に相当する接待を受けていたというのだ。 



コシ社を通じた不正融資が始まったのは、接待開始から半年後のことだった。 こうした経緯から、警視庁は接待と不正融資が密接にかかわっていると判断。裏付け捜査のため複数のソープランドに出向き、堀容疑者の来店状況を確認している。



その結果、多くの店が堀容疑者を「常連」と認識していたというから、その頻度は想像に難くない。 コシ社と取引のあった不動産関係者によると、ソープランドの前で中林容疑者が「今から友人を呼ぶよ」と連絡した。すると、わずか数十分の間に堀容疑者が駆けつけたというエピソードもある。 



不正融資を可能にした堀容疑者への“報酬”は接待にとどまらず、次第にエスカレートしていく。コシ社が月額30万円のマンション6カ月分の家賃を肩代わりしたほか、堀容疑者に銀行カードを貸与していたことも明らかになった。カードからは2年間で約1500万円が引き出された形跡があったという。 「堀とはズブズブの関係だ。どうにでもなる」 当時の部下に対し、中林容疑者は自慢げにこう話していた。



この元部下は「堀容疑者を信頼しているというより、利用しているという感じがした。中林容疑者からすれば、接待というエビで、巨額融資というタイを釣ったということだよ」と証言した。 中林容疑者は“金ヅル”として、堀容疑者を完全に支配下に置いていたのだ。 



■貸し渋り、貸しはがしと同時期に…



 便宜を受ける目的で飲み食いをさせ、取引相手を籠絡する-。こうした接待が犯罪の温床となった事件は、過去にもあった。 平成10年には四大証券の利益供与事件に端を発し、大蔵省(当時)職員に対する接待疑惑が浮上。証券会社や都銀による接待の見返りに、検査日程を漏らすなどした収賄容疑で、同省の金融証券検査官室長、証券局総務課長補佐らが相次いで逮捕された。



大蔵省との折衝担当者(通称・MOF担)による「ノーパンしゃぶしゃぶ」接待が話題となった事件だ。 最近では19年、防衛装備品調達をめぐり、商社からゴルフ接待や金銭提供を受けた見返りに便宜を図ったとして、収賄容疑で前防衛事務次官が逮捕された事件も記憶に新しい。 



これらは、いずれも事業認可や公共事業の発注権限を持つキャリア官僚らに対して行われた「官民接待」で、接待そのものが賄賂に当たるとして立件された。一方、今回の事件は銀行と不動産会社の間で行われた「民民接待」であるため、接待そのものが、ただちに犯罪になるということはない。 



「“ビジネスの潤滑油”としての接待は、多くのサラリーマンが経験しているだろう。それにしても堀容疑者への接待はあまりに度が過ぎていた。なぜ相手が近づいてきて、多額の金を肩代わりしたのか。冷静に考えれば、不正融資に加担する前に引き返すことはできたはずだ」 捜査幹部の1人はこう指摘する。 



折しも堀容疑者が過剰接待を受け、湯水のように融資金を引き出していた時期は、銀行による貸し渋り・貸しはがしが社会問題となった時期とも重なる。融資が受けられず、倒産を余儀なくされた中小企業も多い。



この捜査幹部は「堀容疑者の個人犯罪とはいえ、額に汗して真面目に働く者が報われない社会であっていいはずがない。銀行にも責任の一端はあるはずだ」と言い切った。 融資を受ける資格のある会社と、資格のない会社-。「コシ案件」が後者であることは言うまでもないが、日本経済の根幹を担うメガバンクの審査体勢が改めて問われる事態となっている。

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