2009年9月25日金曜日

PSP go

東京ゲームショウの主役になれなかった「PSP go」

「東京ゲームショウ2009」のSCEブース
 
24日に幕張メッセ(千葉市)で開幕した「東京ゲームショウ2009」。今年の注目は、11月1日に新型携帯ゲーム機「プレイステーション・ポータブル(PSP) go」を国内発売するソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が、「プレイステーション」ブランドをどのようなビジョンで磨き上げてくるかにあった。しかし、浮き彫りになったのは、他社から追われるSCEの厳しい立場だった。(新清士のゲームスクランブル)
 
PSP goの着目点の1つは、アップルへの対抗策だった。それは、アップルが9月9日に米サンフランシスコで行った新型「iPod touch」の発表が、既存のゲーム機メーカーへの宣戦布告といってもいい内容だったからだ。

■「ゲーム機」の性格を強めるiPod touch
 
これまでアップルは、iPod touchを「最高のエンターテインメントデバイス」といった位置づけで表現し、ゲーム機としての側面を前面に押し出すのを避けてきた。ところが今回は、講演のプレゼンテーションであからさまに「ニンテンドーDS」「プレイステーション・ポータブル(PSP)」と比較するなど、ゲーム機としての優位性を正面からアピールしている。
 価格を見てもそれは明らかだ。iPod touchの8ギガバイトモデルは1万9800円に設定された。さらに、「iPhone 3GS」と同等のハード性能を持つ32ギガバイトモデルを、搭載が予想されていたカメラデバイスを削ってまで2万9800円に抑えたことも注目される。
 
「iPhone」とiPod touchの合計販売台数は全世界で5000万台に達し、5290万台のPSPを年内にも上回る可能性が出ている。PSP追い落としを狙うアップルに対し、SCEがどのような対抗戦略で応じるかが注目されたのは当然といえる。

■既存PSPの値下げは何を意味するか
 
PSPシリーズの新機種となるPSP goは、ゲームのダウンロード販売を前提としている点で、iPhoneやiPod touchと直接競合する。コンテンツを映像や音楽などに広げるというコンセプトも極めて近い。


基調講演する平井一夫社長兼グループCEO
 
しかし、SCEの平井一夫社長兼グループCEOが24日に行った基調講演は、世界規模の新たな施策の発表もなく、率直に言うと期待はずれという印象だった。平井氏はプレイステーションの1つの柱として「ノンゲーム」というコンセプトを掲げているが、具体的な発表は映画・アニメやコミックの配信を始めるという程度にとどまり、新規性は乏しかった。
 
ただ、平井氏の講演後にサプライズがあった。SCEの日本法人SCEJが別に記者会見を開き、UMDディスク搭載型の現行デモル「PSP-3000」の希望小売価格を1万9800円から1万6800円に値下げすると発表したのだ。
 
これは2004年の初代PSP発売以来、初めての値下げであり、「ニンテンドーDSi」の1万8900円を下回る大胆な価格設定でもある。iPod touch対策という視点では、PSP goで直接対抗するのではなく、既存のUMD搭載型PSPを充てるという色彩を鮮明にしたともいえる。

「PSP go」の概要を説明するプレゼンテーション資料

■欧米でのPSP go販売に悪影響も
 
しかし、そのために逆にPSP goの位置付けは曖昧になってしまった。
 北米・欧州では、日本に先行して10月1日にPSP goが発売になる。24日時点では、PSP-3000が海外でも値下げされるかどうか発表になっていないが、このタイミングで日本での値下げを発表したことで、海外でのPSP goの購入意欲を引き下げてしまう可能性がある。
 
そうでなくともPSP goは、既存のPSPと性能面で同等ながら2万6800円と価格設定が高めで、すでにUMD版を購入しているユーザーが乗り換える必然性が弱いと指摘されてきた。
 
SCEJの発表では、PSP goの初期の購入者には、既存の14タイトルのPSP用ゲームのベスト版から1本を無料でダウンロードできる特典が付くというが、それに価格を補うほどの十分な魅力があるとは思えない。中古市場を通じて、安い価格でUMD版のゲームを入手できてしまうためだ。
 
今年の東京ゲームショウは、PSP goが目玉というのがもっぱらの前評判だった。しかし、SCEの自己否定といってもいい戦略によって、発売前から雲行きが怪しい状況になっている。
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■SCEが抱える2つの課題
 
SCEはグループとして、戦略面で2つの課題を抱えている。
 第一に、SCEグループ各社の戦略の不整合を解消するのに相変わらず苦戦している点だ。
 
現在に至るまで、日本、米国、欧州の各地域の現地法人の独立性が高く、販売戦略などの組み立て方にばらつきが出ている。これは「プレイステーション2」の時代までは、地域密着の戦略を矢継ぎ早に展開できるという意味で有効だった。しかし現在では、グループ全体の整合性が取れず混乱を招いている。

例えば、日本のローカル向けの発表が海外に即時にフィードバックされ、ユーザーの間に誤解されて伝わることも少なくない。
 第二に、SCEは、新たな戦略を早めに外部に公開しなければならない悪循環に陥ったようにみえる。
 プレイステーションをはじめとする既存ゲームビジネスは、自社のプラットホーム戦略を早めに各ゲーム会社に公開し、それに合わせてゲームタイトルを作ってもらうことでシェアを広げてきた。しかし、それがうまく機能しなくなりつつある。

<拡大>
「モーションコントローラ」のプレゼンテーション資料

■垂直統合型が有利な局面に
 
例えばSCEは、今年5月の米ゲーム展示会「E3」で新しい入力デバイス「モーションコントローラ」を発表した。続く8月の独「gamescom」では対応タイトルを発表したが、具体的な内容は東京ゲームショウで公開すると説明したのみだった。しかし、今回の発表でも「発売は来年春」と大きな変化はなく、肝心の中身が見えない。
 
そもそもPS3は、他社のハードに比べて普及台数が少ないこともあり、デバイスとしての魅力を伝えて各ソフトメーカーに対応ソフトをつくってもらう必要がある。そのため、アピールは続ける必要があるが、細切れな発表になるためインパクトが弱まっている。 しかも、来春という期間の長さは、競合他社に対抗策を用意させる時間的な猶予を与えることになり、自らを不利な立場に追い込む。
 
「Wii」のコントローラーで体感ゲーム市場を創出した任天堂がSCEへの対抗策を取らないとは考えにくく、アップルも同様に手を打つと思われる。
 
両社の共通点は、パートナー企業を抱える前にまず、自社内でサービスやタイトル戦略を完結できるところにある。今の局面では、垂直統合型戦略をとる企業の方が有利なのだ。

■チャンスを生かしきれないSCE
 
SCEはPSP goという優れた戦略商品を用意しながら、周辺のビジネススキームを固め切れておらず、せっかくのチャンスを生かしきれない可能性が高くなってきた。これは、PS3の今後の展開にも影響を与えるだろう。
 
結局、ソニーグループ全体を含めて、ゲーム事業の方向性がはっきりしていないことに原因がある。SCEの個々の現場スタッフは奮闘を続けているが、グループ全体を串刺しにする独自ビジョンは見つかっておらず、混乱はまだ続いている。
[2009年9月25日]

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